// asaon06-reject1.txt
// 2004-06-10 piske
// Title: もうひとつの心
// Reason of rejection: 告白のシーンは和馬のためにとっておきたいため。

 

はるかは、ゆっくりと目を開ける。時計は六時を指している。外はまだ薄明るい。
…ちょっと早いけど、起きよう。
そう思い、起き上がる。テレビのリモコンを取り、電源をつけた。
ゆっくりと、画像が表示されていく。放送されているのは、夕方のニュース番組だった。
「って、夕方の六時かっ!」
薄明るいのではなく、薄暗い、だった。

 

かなり遅い日課を終えたはるかは、トイレへと立った。
用を足し、秘部をペーパーで拭く。
…この動作にも何気に慣れちゃったなぁ…。
複雑な気分になり、ふと、下を見る。便器は、赤に染まっていた。
「うわっ! 血尿!?」
その赤は、今も滴り落ちている。それを見て、ようやく理解した。
…これが………せ、生理…?
「ど、どどっ…、どーしよー…?」
はるかは慌てて、そこをペーパーで押さえながら部屋へと戻り、携帯電話を手にした。
…誰か、いないかな…?
そう思い、電話帳をスクロールさせていった。

 

「ごめん…。 助かったよ…」
はるかは、優に電話をしてナプキンを持ってきてもらった。
「ううん、いいよー」
「ほんとごめん…。 こんなこと頼めるの、お前ぐらいしか思いつかなくて…」
申し訳ない気分でいっぱいだった。今まで男だった奴の元に、生理用品なんてものを持って来させるなんて。
「ねぇ、名前で呼んでよ」
「…えっ?」
「ほら、『お前』じゃなくて。 ね、女の子らしく♪」
まったく気にしていないのか、彼女はそんな提案をした。
「あ、あぁー…。 優…ちゃん…?」
「よくできました。 じゃ、これから必要なもの、買いに行こうよ」
「う、うん」

 

商店街の中。薬局の前で、優は足を止めた。
「そういえば、お化粧はしないの?」
「え? …うん、ちょっとね。 仕方がわからないから…」
それを聞いた彼女は、はるかの手を引き、店の中に入っていく。
「それじゃあ、あたしが教えてあげるよ」
「え? いいよ、そんな…」
「いいから、いいからー」
引っ張られて、化粧品のコーナーの前まで移動した。
彼女は、掴んだままの手をファンデーションのサンプルのところまで持ってくる。
「この辺かなー?」
そう言い、そのふたを開けて、はるかの手の甲に少し塗る。
「うんうん、これだね」
はるかは、成されるがままになっていた。

 

ひととおりの物を揃えて、二人はレジへと向かった。
それの会計が終わる。と、優は店員に聞く。
「すいません、お手洗い借りてもいいですか?」
「どうぞー」
店員は快諾する。
「じゃ、行こう」
優は再び、はるかの手を引いた。
「え? 僕はいいよ…」
「じゃなくてー」
引っ張られるまま、はるかは化粧室に入った。
割と広いそこで、化粧をしようというのだ。
「じゃあ、ファンデつけるから、目閉じて」
「う、うん…」
目を閉じると、トントン、と柔らかいものが目の辺りに当たる感触があった。
「ファンデは、塗るっていうか乗せるって感じでね」
「うん」
顔全体にそれをつけ終わる。続いて、先ほどよりも少々赤めのものを取り出す。
それを、ブラシを使って頬につける。
「最後は、口紅。 これは自分でできる?」
そう言い、彼女はそれを差し出した。
「たぶん…」
はるかは、それを受け取り、ふたを開けた。
「あ、塗るのは上唇だけね」
「え?」
「塗ったら、こうやって…」
彼女は、上下の唇を合わせる。
「下のほうにも塗るの」
「あぁ、そういえば女の人がやってるね」
「そうそう」
こうして、すべての工程が終わった。
「そんなに難しいものでもないでしょ?」
「うん、思ったよりは」
彼女は、化粧の終わったはるかの顔を眺めて言う。
「やっぱり、いいじゃない」
「そ、そうかな…?」
「うん。 素顔でも十分かわいいけどね」
「そ、そんなことないよ…」
はるかは、照れて右手を横に小さく振った。

 

二人は、商店街を歩く。はるかは、茶色い紙袋を抱えるように持っていた。
「いろいろとありがとう。 勝手が違うから、わからないことが多くて…」
「いいよいいよー。 困ったことがあったらなんでも言ってね」
「それじゃ、お世話になります」
軽くお辞儀をする。それを見た彼女は微笑み、
「あのさ…、ちょっと、公園寄っていこうか」
と、言った。
「え? うん、いいけど」

 

二人は、公園のブランコに座っている。上からキイキイと音が鳴る。
「ねぇ、高橋くん…」
先に口を開いたのは優だった。
「うん?」
俯いていたはるかは、その方向に首を向けた。
「こんなときに、あれかもしれないけど…」
彼女は言いづらそうに、数秒黙った。
「あたしね、高橋くんのこと、好きなの」
風が吹く。優の長い髪がなびく。
心臓の鼓動が早くなっていく。顔に赤みを帯びていく。
告白をされて、こうなったのは初めてだ。
「付き合って、もらえる?」
彼女からの悪くない問いかけ。だけど、今はそれを恐れていた。普段なら即答するはずだが…。
「ちょっと、考えさせて…」
そう、答えていた。
今ここで首を縦に振ってもよかったのに。元の姿に戻ったら付き合い始めればいいのに。
心に、引っ掛かりができている。
なんだろう?これは。
「うん、いいよ。 気持ちに整理がついたら、答え、ちょうだいね」
「うん、ごめん…」
謝っていた。無意識に。

 

その夜、自宅へと戻ったはるかは、そのまま布団に倒れこんだ。
のどに何かが詰まっているような不快感。
いくら考えても、それを拭いきることはできなかった。
天井を見る。蛍光灯の光が揺れていた。
壁を見る。時計は九時を指していた。
目を閉じる。寝すぎた所為で、眠気は訪れなかった。
空腹に気づき、起き上がり、台所に立つ。
炊飯器は十四時間、保温していたことを示している。
適当におかずを作って、皿に盛る。それをテーブルに運んで、食べ始めた。
スクランブルエッグに口をつける。
「うぇ…。 しょっぱい…」
砂糖と塩を間違えたようだ。
でも、食べる。頭の中を駆け回る思いを整理しながら。

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